奈良県平群町メガソーラー林地開発許可取消訴訟での勝訴報告

【事例報告】平群町メガソーラー林地開発許可の取消訴訟での住民側「逆転勝訴」・審査基準の設定における裁量権の逸脱濫用を理由として、林地開発許可の取り消しを認めた全国初の判決(大阪高裁令和8年6月18日)

1.事案の概要

平群町メガソーラー訴訟弁護団(以下、当弁護団)は、奈良県生駒郡平群町において計画されていた大規模太陽光発電所(いわゆるメガソーラー)の建設を巡り、開発対象区域の下流域に居住する周辺住民(控訴人)の代理人として、奈良県知事による林地開発許可処分の取消しを求める訴訟を担当いたしました 。

本件は、開発対象面積約48ha、太陽光パネル約5万3000枚という極めて大規模なメガソーラー開発計画です 。一審(奈良地方裁判所)では住民側の請求が棄却されましたが、大阪高等裁判所での控訴審において一審判決を覆し、「林地開発許可処分を取り消す」という住民側完全勝訴の判決を得ることができました 。

太陽光発電事業に伴って都道府県が行った林地開発許可が裁判によって取り消された事例は、メディア等の報道によれば【全国で初めて】1のケースとなります。

2.本件の争点

山林を大規模に切り開くメガソーラー開発においては、大雨の際に下流へ一気に水が流れ込み、深刻な土砂災害や水害を引き起こすリスクが生じます。 そのため、森林法に基づき、行政(奈良県)が設置を義務付ける「洪水調整池」の容量が、地域の安全を守るために本当に十分な規模で設計されているか(災害防止機能を満たしているか)が最大の争点となりました 。

3.弁護団が追及した「行政審査の不備」

裁判において、行政側は「自らの定めた審査基準に従って審査をしているため裁量の逸脱濫用はない」と主張していました 。しかし当弁護団は、審査基準自体の不合理さにつき、行政が定めた審査に従った計算を行い事業者の計画では安全性を確保できないことを、科学的・客観的証拠に基づいて徹底的に追及しました。

  • 現代の豪雨リスクを無視した想定: 行政が適用した「ゴルフ場基準」では、雨が降り続く時間(降雨継続時間)を一律「10時間」として計算していました 。しかし、近年の激甚化する気象データや現地の観測所の実例(日降水量が145mmを超える豪雨など)に照らせば、現代の降水は20時間以上に及ぶことも珍しくなく、10時間を超えた場合には事業者の計画の調節地では水があふれる計算となることを主張しました。
  • 科学的水準・他基準との乖離: 林野庁が発している全国的な通達による基準や、奈良県自らが定める他の総合治水基準(大和川基準)では、降雨継続時間は「24時間」を標準としています 。これに比べて、わずか「10時間」という緩い想定のまま、机上の計算だけで安全性を認めた行政の判断は不合理であると主張しました 。

裁判所の審理においても、進行協議において、弁護団からの不合理性の指摘に関して、裁判官から複数回にわたって被控訴人奈良県に対して釈明を求めておりました。

4.裁判所の判断 ― 法の趣旨目的による行政裁量の限定

従来の行政訴訟では、行政機関の「専門技術的裁量」が強く尊重され、行政が定めた内部基準に形式的に適合していれば、司法がその内容にまで踏み込むことは極めて困難でした 。しかし本判決は、この「裁量の壁」を超えて、行政の専門技術的裁量に委ねられる分野に対する司法審査に関する先例となる画期的な判断を下しました。

判決において、裁判所は専門技術的な行政裁量に対する司法審査のあり方について次のように判示しました。

森林において必要な防災措置を講じないままに開発行為が行われるときは、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害が発生し、人の生命、身体の安全等が脅かされる恐れがあることに鑑み、こうした災害の防止機能という森林の有する公的機能の確保を図る趣旨から、開発許可の段階で、開発行為の設計内容を十分審査し、当該開発行為により土砂の流出又は崩壊、水害等の災害を発生させるおそれがない場合にのみ許可をすることとしている(最高裁平成13年3月13日(民集55巻2号283頁)。

そして、「当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあるか否か、当該森林の水害防止機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあるか否か等といった危険性の判断に当たっては、当該森林の地形、地質、下流域の河川の流出能力、地域の気象(流域の過去の雨量)等の自然的条件や、人口分布(流域の土地李鵬の実態)等の社会的条件を総合的に判断しなければならないうえ、土木・建築、地質、気象等といった多方面にわたる事項についての現在の専門技術的知見が必要となる。そうしたことから、法は、上記のとおり専門技術的知見を要する森林の開発行為の許可について、予め要件を具体的かつ詳細に定めておくのではなく、そのための審査基準の設定およびその具体的適用を行政庁の専門技術的裁量に委ねることとしたものと解するのが相当である。

洪水調節地の設置計画の審査にあたっては、「当該審査基準において、洪水到達時間、流出係数、ピーク流量及び洪水調節容量の計算方法等のほか、上記のとおりの当該地域(流域)の実情に応じた計画対象降雨の降雨強度曲線(式)、降雨継続時間等の技術的事項を具体的に定めておくことが必要不可欠となるが、この点についても、上記のような観点から、行政庁の専門技術的裁量に委ねられているものと解される。

以上の点からすれば、洪水調節地の技術的時効に係る審査基準の設定および当該審査基準への当てはめの適否が争われる林地開発許可処分の取消訴訟における裁判所の審理・判断は、専門技術的裁量を有する処分行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであり、現在の科学技術水準に照らし、処分行政庁が審査に用いた具体的な審査基準に不合理な点があるか、あるいは当該開発行為が当該審査基準に適合するとした処分行政庁の判断過程に不合理な点があり、それが看過し難い程度に重大なものであると認められる場合に、審査基準の設定又はその適用に係る処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある違法なものとして、当該処分を取り消すべきものと解するのが相当である。そして、上記のとおり、法が人の生命、身体の安全等を脅かす水害等の災害の防止という、森林の公的機能の確保を図る趣旨から、開発許可の段階で開発行為の設計内容を十分審査し、当該開発行為により土砂の流出又は崩壊、水害等の災害を発生させるおそれがない場合にのみ許可をすることとしていることに鑑み、処分行政庁の判断に不合理な点があるか否か等については、そうした観点から十分な検討を要することとなる。

すなわち、専門技術的裁量に委ねられる行政の裁量も、決して「フリーハンド(自由裁量)」ではなく、あくまで「法が目的とする住民の生命・身体の安全、水害等の災害防止」という法律の範囲に限定されるものであり、司法審査はその目的の観点から厳格に及ぶべきであることを明確に示しました。その上で、現在の科学技術水準や自然的条件を無視して「10時間」という内部基準をそのまま適用した判断過程には看過し難い程度に重大な不合理があり、「審査基準の設定又はその適用に係る処分行政庁の裁量権の範囲の逸脱又は濫用である」と明確に認定されました。

審査基準の設定およびその適用における行政裁量について法律の趣旨に従った合理的な範囲でなければならないとし、具体的な行政審査の不合理性と結びつけた点において、本判決は先例的価値を有すると考えます。

5. 本判決が持つ社会的意義

今回の判決は、今後の日本の「行政実務」および「再生可能エネルギー事業」の在り方に極めて重要な一石を投じるものです。

  • 行政実務への警鐘(杜撰な審査の否定): 行政機関は、時代遅れの古い基準や形式的な数字のチェックに依存した「杜撰な審査」を猛省すべきです。法律の趣旨を徹底し、人の生命・身体の安全を守るため、現代の気象状況と地域の実情に即した、厳格かつ責任ある審査実務へと変革することが求められます。
  • 事業者への警告(安全度外視の取消リスク):どれほど莫大な投資をして工事を進めていようとも、地域の安全への配慮を度外視し、杜撰な行政審査に便乗して得た許可は、事後的に裁判で「取り消されるリスク(事業継続が不可能になるリスク)」があることが明確に示されました。

6. 残された課題と今後の展望:喫緊の災害対策と民事訴訟の継続

今回の勝訴判決によって行政の許可は取り消されましたが 、これで地域の安全が完全に確保されたわけではありません。

本件の開発地は、急峻な山間部に位置しています。その下流わずか750mの場所には、勾配13%〜16.2%という極めて土砂流出の危険性が高い斜面に挟まれる形で、約1000名の住民の方々が暮らす住宅地が存在しています。現地ではすでに森林が大きく切り開かれて工事が進められており、森林を失った剥き出しの山肌は、大雨のたびに下流の住宅街へ濁流や土砂を流出させる危険性を有しています。この「すでに生じてしまっている災害リスクへの対策」および「原状回復」は一刻を争う喫緊の課題です。

当弁護団は、行政の許可取消を確定させるのみならず、1000名を超える住民の皆様の生命と安全な暮らしを物理的・現実的に取り戻すため、同じ案件において別途工事差し止めを求める民事訴訟(現在も係属中)についても、引き続き総力を挙げ、ワンチームとなって全力で闘ってまいります 。

7. 住民の皆様の歩みと専門家との協働

本件の勝訴は、弁護団だけの力で成し得たものではありません。

何よりも、地域の安全と未来を守るために、長年にわたり一歩も引くことなく絶え間ない活動を続けられた住民の皆様の強い熱意と結束力があったからこそ、この厚い壁を破ることができました。

また、行政側の「机上のシミュレーション」の歪みを科学的に立証するにあたっては、土木専門家の先生方との緊密な協働が不可欠でした。専門的な知見から多大なご尽力をいただき、裁判所を動かす客観的証拠を構築できたことに、心より深く感謝申し上げます。

当事務所は、今後も高い専門性と事実に向き合う緻密な分析力で、市民の皆様の権利と安全な暮らしを守るために全力を尽くします。地域の開発計画や環境破壊、それに伴う災害リスクに不安を抱かれている方は、どうぞお気軽にご相談ください。

  1. https://voiceofnara.jp/20260625-news1297.html ↩︎

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この記事を書いた人

喜多 啓公のアバター 喜多 啓公 弁護士

大阪弁護士会所属の弁護士。不動産オーナーや不動産会社の方からの相談を中心に、契約やトラブル解決をサポートしています。現場をよく知るために「賃貸不動産経営管理士」の資格も取得しました。2023年には自分の事務所を立ち上げ、家賃滞納の督促を弁護士がSMSで行うサービス「Send Legal」もスタート。現在は京都大学法科大学院の非常勤講師も務めながら、実務と教育の両面で活動しています。

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